ふぁぼって紅

Favoriteが欲しすぎました。いや、欲しすぎます進行形で。偏見による乗りもの語りと軽い読み物を少々嗜む程度に書いています。

T550│東急バス

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東急バス¦T550いすゞ自動車¦KL-LV280L1改¦2004年

2004年9月式、東急バスでは最終導入にあたるKL規制車で新製配置は川崎でした。川崎営業所閉設を前に弦巻へ転出し、同じくして虹ヶ丘へ飛ばされた僚車2台とは別に都心部で余生を歩むことになります。いわゆる車体再生が行われていますが、施工時期の修繕メニューの関係から取り立てて外観に変化はありません。渋谷駅前を通るたびに見かけるような車で日常によく溶け込んでいましたが、後継形式PJ-LV234系に経年による除籍が発生した今日では現存する数少ないKL代となり、このような当たり前の光景も見納めが近づいています。109の日ということで取り急ぎ東急バスでした。

K-M225│東京都交通局

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東京都交通局¦K-M225¦日野自動車¦PJ-KV234L1¦2004年

2005年2月式、6HK1原動機を具えるPJ規制車のごく標準的な一台で、写真は[上46]に充当中です。同年式でいうと先代の280系を断続して選択している事業者も多々ありますから、初期のロットといえるでしょう。翌年度導入のN代と合わせて、見ないエリアはほとんど無いというくらいに一大勢力を誇っています。いずれもLVとKVがほぼ等しく混在していますが、ここ南千住に関してはKVで揃えられています。周りを見渡すと陰りが見えてきたお年頃ですが、当面はフラグシップとして健闘が期待できそうです。

N1334│中国バス

f:id:dokicon_docoen:20161007020911j:plain中国バス¦N1334¦日産ディーゼル工業¦KL-UA452KAN¦2001年

東急バス、元M210。この手のノンステップ富士重は東京圏だけでも外観の似た事業者がいくつか存在し広範囲に散らばっていることから、移籍先で同じ塗装をまとって混ざっていたりすると紛らわしいケースがありますね。この車の新製配置は新羽で、トランセ下馬を経由して古参格となった最晩年に目黒営業所へ転属し一驚されたのが記憶に新しいところです。東急では最も汎用性のあるUD車だけに非常に転配の多い車種でした。同車の目黒時代は半年と短く一過性でしたが、最古参の年式の電撃転属はやはりトレンド的になりましたし、真新しい品川ナンバーを下げて一線で活躍する末期の印象が強いという品川エリア民の方もいるのではないでしょうか。

698│琉球バス交通

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琉球バス交通¦沖縄200 か ・698 ¦ 日産ディーゼル工業¦KC-UA460HSN¦1997年

東急バス。とても身近なところにいたのでかなり感慨深い車です。元はI1603で、同じ命運を辿った朋輩1604(現:沖縄200 か ・701)と共に数少ない池上生え抜きの車でした。池上のUA460は10台以上とまとまった数がありましたが、他に同形式の生え抜きを挙げてみると96年式のI1510のみということになり後年の転出の激しさが垣間見えるかと思います。旧来池上の7Eの証として塗り潰されたフロントマーカーランプが比較的定番でしたが、96年度以降の車はマーカーランプ自体の装備が無くなっています。奇しくも、本家東急では本年導入車が1600代となり、19年もの歳月を経て社内番号が一周しました。

001. 高嶺の花ということ

昨今、アイドルやそれに準じる職種に関係する女性が内情を暴露したり、客である所謂“オタク”について言及してみたりと化けの皮を剥いだように過激なつぶやきで賑わっており、自分のタイムライン上でも目にする機会が多くなりました。

そんななか、小生の目についたのはアイドルにも彼氏がいて当然だから否定するな。もっと言うと『アイドルに彼氏は禁忌とか言ってるオタクはなんなの?』というような文脈だったと思いますが、果たしてこれはどうでしょう。

この場合の“アイドル”が比較的知名度のあるメジャーアイドルだったと仮定しますが、そもそもアイドルとは一種の偶像です。偶像であるということは、あることないこと幻想を抱かれて然るべき、ある程度は当たり前です。

もちろん、こちらオタクとしては彼氏の存在について何ら否定できませんし、おそらくはその子達だって年頃の少女なのでしょう。色恋の一つや二つくらいあったとしても全く不思議ではない。なので、といっては何ですがプライベートに言及することもできません。それどころかそんなのは知ったこっちゃない。当然、一般には知る由がないからです。

ただ、同じようにタブーなのは逆も然りで、アイドル側は抱かれた偶像に対して否定したり指図することはできませんよということです。

 

はじめまして

さて、ここではTwitterでやるとまるで腫れ物でしかない掃き溜めや、はたまた個人的な趣味分野に関してやんわりと触れていきたいと思っています

ちなみに言っておくとアイドル趣味はありません

努力義務違反 (―予告編)

……

…………

………………

 

口をそろえて、人は努力しろと言う。当然、何ら尽力せずに多くを望むことは強欲であると認識している上で世間体がさほど甘くないことくらいは十に承知しているつもりだが、だからといって自分の感情をなおざりにしておけるかといえば、否、そうではないだろう。努力した先に待ち受けているものは何だろうか。人々は決して努力の観測者にはなってくれない。尽力の果てにあるものは温かい容認ではない。生半可な目に他人の努力など映らない。元々終着のない向上を、ただ相手の一切を考慮せず機械的に繰り返し促すだけという薄情なものだ。第一、それは他人の努力を読み解こうとする努力が足りていないことに端を発するから、そもそも言動が相反していることにもなる。それに、倫理が存在する以上、いくら努力をしたところで実る公算が著しく低い物事は極めて多岐にわたる。簡単な話が、毎分毎秒、怠らず念じれば生身で空を飛べるかと問われれば言葉にするまでもなく、結末は絶対的に明白だろう。

もっと例えてみよう。空想上でなく生身の自分という人間が高嶺の花の象徴とも称するべきアイドルと赤い糸で結ばれる確率は果たして十分だと高らかに語れるだろうか?わざわざ口にするのもみすぼらしいほど、もはや天文学的な確率論の世界になること必至だ。とまあ、苦言に近しいソウルの叫びを書き連ねてはみたが、巷から言えば年端もいかない若造の分際で悟り切ったかのような物言いをするのはあまり感心に値しないはずだ。それでむしろいい。僕だけはいつまで経ってもガキだ。

青春とは反抗したいお年頃だ。青春が何であるか、一口に定義を紐解ける人がいたらぜひともその語彙の深さと知性を少しでも分けてほしいところだが、というよりは青くして現実の壁に直面し得るこの世知辛い世界そのものに問題があるのではないかと思わず苦言を呈したくなってしまうのは一種の若気の至りのようなものだろうか。いずれにせよ、子供の戯言で終わってくれて一向に構わない。僕も、僕たちも、君も、今はまだ未熟なまま、大人街道に差し掛かったばかりだ。

明瞭かそうでないかの相違はあれ我々は目的意識が先行しがちで目下重要視されにくいが、目的に到達することが一つの終着点だとすると実のところ末端を目指し奔走する過程の部分が最も価値のある、何物にも代えがたいかけがえのない、とでも言っておこうか。残念ながら僕は遠く無縁になってしまったが、学校と思えば非常に理解が深まるのではないか。

すべての授業過程を履修し、卒業して肩書きを失っては全くに空っぽだ。残るものは胸に秘めた記憶の欠片と、形あるもので卒業アルバムなんかだろうか。だからこそ在学中の、その履修の過程に起こる出来事が青春なんていうやつなのだろう。

ところで、先にアイドルとの相思相愛の可能性を比喩として引き合いに出したのは他でもなく、自分の生活に密接に関わっているからだ。これまた我ながら語弊を招きそうな言い方をしたものだが、青春のくだりの延長線によいのでついでに腹を割っておく。密接に関わるというのは、それこそ壮絶なスケールで選ばれし小数的、天文学的な確率の覇者であるという完全勝ち組を豪語、格式の違いを誇示しているわけではなく、単にその類とほぼ同義と言えるモノによって僕の小宇宙が形成されているのだという意訳に過ぎない。僕は近状に満足していない。そうだな、ただちっぽけな。

セミの一生は実に短いと言われている。幼虫時代を暗い地中で過ごし、ある晴れた日の夕方、樹上に現れたそれは羽を広げ、まだ見ぬ大空へ向かって翔けていくのだ。残り少ない天命を知ってか知らずか、今という取り留めもない一瞬を律儀に過ごしている。小さい世界だ。一生のうち、その目に映るものは決して多くはないだろう。セミに対する情熱は特になく、知識に長けていることもないが、こう脚色をつけたくなってしまうのは所詮ヒト目線だからだろうか。羽化後の短い生涯、異性と運命の出会いを果たせる確証は?

あるいは、大きすぎる世界の狭い片隅に溺れ、見落として、それでも必死に断片を探そうともがき続け、可能な限りの手を尽くした。いや、そうしようとしたのか。

広い世界の、氷山の一角で。狭く乏しい視野の中。

でも、僕らにはまだ、わずかの猶予が残されているから。

それは青春と称するにはもう手遅れで、輝きをあまりに失い切ってしまったけれど。

――報われたい。当然だろう?

 

『――ふゆくん』

背後よりお呼びがかかったので、軽く目を見開いて声の主のほうへ向き直ろうとする。

「……うん?なんでしょう」

心なしか肩に手のひらと思しき温もりが触れた気がした。

『チェキ!撮ろ――』

少女はにこやかに言った。腰に「ひかげ」と大きく書かれた腰のネームプレート。肩丈ほどの、さながらショートカット風味におさげ。別に僕ら昔の人間ではないのでいくらか今風に言うと姫カット、ぱっつんなどと言ったりするんではなかろうか。

「……て、ああ、俺か!」

自分の番か、と短く応えると席を立ち上がっては彼女の隣に並ぶ。

『寒くないの?そんな格好してて』と彼女は言う。

「中じゃそんなに寒くはないぞ」

言って僕はTシャツの襟をつかんでみせた。

『寒いよー、信じられない!』

「そうか?俺は名前が寒々しいだけだからな、大したことないよ」

『もう夏じゃないんだよー』

「まあ、残念ながらそうだな」

自然と会話が生まれることに喜びを覚えつつ共に店内を歩き、ホールの正面に位置する小高いステージへ上がると、少女は角の丸いピンクのカメラを取っては僕に手渡してくれた。仕事の一環なのだから手慣れたものだ。

――チェキ。敢えて解説するまでもないだろうが、一言で片付けるとその場で現像がなされるポラロイドカメラだ。今時の女の子でその存在を知らない者は果たしているのだろうかと首をひねるほどであるし、それだけ普及しているものだ。例えば、アイドルという象徴的なビジネスには重宝されている。つまり、チェキ撮影なる行為に金銭を発生させて効率的に利益を上げているわけで、今この瞬間まさにカメラを握っている僕も通貨という対価を払っているのはもはや言うまでもないだろう。

「……いきまーす!」

 『……はーい』

カチ、と安い機械音の後に側面から長方形の台紙と一体のフィルムが放出され、それはすぐに造影される。

どうもフィルム側に充満する現像液をカメラ本体のローラーで均一に伸ばすのがこの規格の特許だとかと聞くが、あまりメカニック的な部分に踏み入れるのは無知がばれるので控えるとしよう。

撮影されたチェキを手渡すと、簡単にではあるが思い思いにデコレーション、格好をつけずに言うとお絵描きをしてくれる。模範と少し違うのは、少なくとも少女達はアイドルではないアルバイトの一般人というところであるが、こちら客からしてみれば暗黙の了解で高嶺の花なのはアイドルと大差ない。認識として同じようなものだ。

『……ふゆくんって冬生まれなの?』

少しの沈黙を経て、口を開いた彼女が話題を提供してくれた。

「いや、実は夏」

『そんなに寒い名前なのに?』

「……存在が寒いみたいな言い草だな」

『……へへっ、ばれた?』

「そりゃなぁ……って、悪意あるのかよ!」

『うん、それなりには』

そう言って悪戯に微笑む彼女は、この限りなく広く霞んだ世界の何物よりも無垢であるかのように感じられた。魔法使い見習いは勘違いしやすいから。

「おいおい、ひっでぇなぁ」

少し顔を緩めておどけてみる。会話なるものはいつの時も出始めが肝心だ。沈黙自体が怖いのに、初っ端から話しが弾まず滞っているようでは、雲行きが怪しいだけでなく話題の発展性もない、それこそ文字通り話にならない。

『えー、スキンシップだよー?』

「……スキンシップって主に身体接触を言うんじゃないの?」

掴んだ話題には全力で、必死に食らいついていく。なるべく途切ることのないよう食い繋いでいく。それくらいの気概がないと、いとも簡単に静寂は訪れてしまう。

『お触りはだめだから、その分言葉のスキンシップねっ!』

「……言葉の暴力、の間違いじゃなくてか?」

『だとしても嬉しいでしょっ?』

「まあ」

当たり前だ。取り留めもない、けれど世間話などではない“個”として囃してくれているのだから嫌な理由はない。

言葉を交わすということ。続く言葉があるのは、当たり前じゃない。たかだか二十年と少しの未熟な経験量でしかないが、伊達に根暗陰キャをやっていないので本当にそれは再認識しているところだ。

特に出逢いから日が浅いうちはお互いに自分史の初歩であるプロフィールの部分からアプローチしていったりするのが自然だろう。それは金銭授受の有無に関わらず、いかなるケースにおいても人との関係を築く上で初歩となる基本原則ではないかと感じる。当然ではあるが、会話にぎこちなさが払拭しきれていないうちは言動の端々に壁や距離を感じることが多かったりするわけである。僕がこの業界の何に精通しているというわけではないが、如何せんこの趣味を始めて短くもない。礎を築き上げるその決して短いといえない下積み期間はどうにも歯がゆいのだ。……まぁ、僕なんては万年下積みか。

忘れてはいけない、ここは”そういう世界“だ。それ以上でもそれ未満でもない。ただ、いつの時どこの世界にも例外というものは存在するのだけれども――

それはまた今度、別の話にしようか。

……

時間にすると何十秒にもならない、云わば一瞬の沈黙。

「……そういえば」

とまで言ってやはり、と口ごもった。

『どうしたの?』

彼女は、僕の発した些細な一言にも真摯に取り合ってくれる。面倒な素振りなど見せずによく耳を傾けてくれる。もっとも、知り合って何ヶ月というわけでもない、彼女の身上からしてみたら新参のようなものだ。いいところで二ヶ月くらいは経っただろうか。たった二ヶ月で何がわかるというのだろう。

無論だ。正直解らない。それに、大前提として今一度記しておくと金銭の発生する営利関係だ。向こうは店員でこちらは客ときたら、ただスタッフとして客の一人に接客をしているに過ぎない。でも、もしかしたら。

もしかしたら、この人になら――この人となら長いこと夢に見ていた対等の立ち位置で、なにか宝石の類のように透き通り鋭利に輝く日々が送れるのではないか。そんな気さえしてしまうほどに、僕はもう恍惚し始めていたのかもしれない。

「……いや、ちょっと聞きたくてね」

『うん?』

だからこそ、無用な催促になってしまいそうで非常に聞きづらいというか言い出しづらく、わざわざこの期に及んで軽薄に口にする必要があるとも思わないようなことだった。

「んと……、その」

『なに?言ってみてよ』

だから、できるだけ直球を避けて無難に。

……そう。

「俺のアカウント、フォローしてくれてたっけ?」

 

……

第一話『世界線は噛み合わない』

Coming soon...

 

  • 第一話『世界線は噛み合わない』

 

 

今だけは前を向いて。(序)

――暗闇に浮かび上がる校舎の灯りを、僕はぼんやりと眺めていた。
冬の訪れを予感させる冷たい風が頬をくすぐり、静かに吹き抜けていく。季節柄、陽が落ちるのが早いとはいえ完全に暗くなるまで学校に居残っていることは、委員会やら部活動やら、なにかそういう類に属していない限りはあまりあったものではないだろう。そこらの都会よりは、という程度で大した星が見えるわけでもないのに、こうして静寂のなかで特に何をするでもなく突っ立っている僕は、はなから普通とは言えないかもしれないし、われながら自分らしくないと思ってしまう。

僕は、もともと一人になることがが好きではなかった。どちらかといえば、いつも誰かの傍にいて、何かにつけて盛り上がっている方が性に合っていると思っていた。現にこう、一人でいることに侘しさを感じている。もっというと、今この瞬間に限ったことではなく、その侘しさはずっと完成することのないパズルをしているような、光の見えない迷宮を長いこと彷徨い続けているような感覚を、高校三年にして味わっていた。
半年前くらい前の自分なら、そのパズルの欠けているピースの一部を補うことはできたかもしれない。実のところ欠けたピースがどういったものであるか、というのは大方つかんでいた。しかし、多くのクラスメイトの進路がすでに決まっているようなこの時期に、パズルのピースが足らないからああだと言っているようではどうしようもないだろう。しかし、今のうちに何とか埋め合わせておきたいという気持ちもまた強かった。残された半年という時間で、いわば自分の理想の青春の形を追いかけるのは、とてもではないが無謀といえるだろう。残念ではあるが、遅すぎたという感じが否めない。これまでの二年半が、思っていたよりも遥かに早く過ぎ去ってしまったように、残りの半年も、おそらくそのようにして過ぎてしまうに違いないと思った。
ひとつ大きなため息をついて、教室を出たときに買った温かいミルクティーの缶を開けおもむろに口へと運んだ。少し飽きかけた味だったが、学校の飲料販売機のレパートリなんてそう頻繁に変わるわけはないし、他に好きなものもないのでよく飲んでいる。哀愁、という二文字が頭をよぎるのは、冬が近いからだろうか。あるいは、終わりが近いことを実感するための警鐘なのかもしれないと思った。願わくば半年くらい、いや、一年分くらいの時が戻ってくれれば、まだ青春を創り上げていくのに遅くはないだろうか。僕はただ流されるがままに、たいして中身のない何につけても希薄な毎日を送り、そうこうしている間にも時は流れ、瞬く間に春が過ぎ、体感以上に短い夏が過ぎ、立ち止まって振り返る間もなく晩秋を迎えて、結局のところ目まぐるしく変わっていく境遇に翻弄されているだけとすら思えてしまう。これから先、大切な記憶として脳裏に眠ることになろう青春時代の記憶に、未練や悔いといった負の心情を塗りたくることはしたくない。そのために、このまま手をこまねいているだけというわけにはいかないのだ。
半年を切った卒業までの間にどうすれば後悔を量産せずに済むか、今からできることとは何か。これもパズルのくだりと同じで、近しいことはずいぶんと前からわかりきっていたはずだったから、ただ単に解決策が見出せない、といった方が語意として似つかわしいかもしれない。自分は決して器用ではない。手先はともかく、時間の使い方一つにしても下手くそで、さらに致命的なのが、口下手で社交性に長けていないところだ。
対人関係を築くのが下手だと、わりと何をしても上手くいかない。特に青春と称される中学、高校ではそれが顕著に現れる場合が多く、端的にざっくり言ってしまえば友達の数が全てを物語っているようなものだ。別にやたらと知人の数が多いからといって得をするようではないのだが、そう煩わしいことは抜きにしても一人よりは二人、五人よりは十人いたほうが楽しみ方の幅が広がることには違いない。僕が理想と現実の間でもがいているのは、今に始まったことではない。たぶん、それは昔から。

まあ、今つらつらと述べたそれらは原因の一つであるという程度のもので、別に僕は多くの友達を欲しているわけでもなければ理想の学校生活のカタチを探求しているのでもない。本質はそこにあるんじゃない。
一つ大きなため息をもらし、僕はあらためて頭上の星空を仰いだ。よく大切な人を彼方で輝く星に例えたりするが、僕等が眺めることのできる星の一個一個は小さく、辺りの漆黒に埋もれてしまってあまりよくは見えない。けれど星というのは、集合体となることによって言葉にならないほどの輝きと感動を人々に与える。大切な人云々はともかくとして、これは誰かの力を借りずには歩んでいけない我々人間と似ているかもしれないと、ちょっとばかり考えてしまう。僕のような寂しがりは特に、まわりに誰かがいてくれないと深い孤独を感じる。我ながらとんだ綺麗事だ。とうに慣れてはいるのだけれど。

翌朝の空は見渡すかぎりに青かった。空の青さに徴される季節は夏だと思うのだが、初冬の空といったらこんなものなのだろうか。まあなんだ、そう悠長にボケっとしている時間はないのでセルフストリートレースを展開しつつ、無事遅刻寸前の電車に乗り、一路学校へ向かうのだった。実に普段どおりの朝だろう。ただ、その“普段どおり”が過去のものとなるのが僕には近い。だからなんだという話でもないが、あくまで通過点にすぎない学生という肩書きをずっと抱えてはいられないので、当然といえば当然だし、仕方ないといえば仕方がない。少し格好つけて言うと、抗えない宿命といったところだろうか。こういう時、前だけを見て歩いていくことができれば、それなりに楽しいと感じるのかもしれない。まあ、今はあまり深く模索しないほうが楽かもしれない。

初冬の低い陽に照らされて、駅から学校へと続く慣れた通学路を歩いた。これまで数えきれないほど行き来したこの道の街路樹の銀杏は、今年も眩いまでに彩られていた。このまま脳裡に焼きつけておくだけでもよかったが、せっかく高性能カメラのついたケータイを持っているのにつかわない手はないと思い、立ち止まりポケットをまさぐった。これまで、通り慣れた道だからと特に気に留めてこなかったけれど、たまに気にして歩いていると新しい発見がある。案外良い光景かもしれないと思った。素早く端末に記録し、また歩き出そうとすると不意に後ろから肩を叩かれた。

『――綺麗だな、紅葉』

「……ああ、そうだな」

すぐにそれが友人という僕にとって栄えある称号を有する簗瀬であることに気づき、特に振り返ることなく相槌を打った。

『……お前、最近どうだ?』

「どうだって、何が」

質問の意図は十分に理解したが、あくまで振り向かずにとぼけると、簗瀬は深い息をついて話し始めた。

『あれから何か進展は?』

「……特には。俺にあると思うか?」

少し嫌味を含んだように聞こえるだろうか。簗瀬は少し鼻で笑ってみせると、僕の右手に握られていたケータイをさらうと、画面を覗き込んで言った。

『パスコードは?』

「さあ、なんでしょう」

適当にあしらって、ゆっくりと僕は歩き始めた。

『……お前、伝えられちゃいないんだろ?』

「……もちろん、何も言えないままだよ」

やはりか、といった具合に簗瀬が苦笑した。

『……だからお前はダメなんだよ』

「……努力って言うのはおこがましいけど、これでも少しは努力してるつもりだよ」

「変わりたいって、いつも言ってただろ?」

確かにそうだ。僕は変わりたいと、よく言っていたし、進行形でよく言っている。人と

接することが苦手というだけで必要以上の重石を背負って過ごす日々に、僕は終止符を

打ちたかった。そう、ずいぶんと長いこと抜け出せずに、自分で足かせをつくって窮屈な思いをするばかりで。

「ああ、変わりたいよ。今も変わりたいと思ってる」

『じゃあ、変われるのは今しかないよな』

『……まあ、俺に言えることはそれくらいかな! ほい、ケータイ』

こちらを向いてそう強く言い放つと、簗瀬は僕と入れ替わりに先を歩いていった。

『あとは知らねーぞ!』

去り際、そう高らかに雄叫びを上げると足早に、いくらか前を歩く登校列に紛れてしまった。彼は明るい人間だ。社交性の塊のようなものだから、人脈にも富んでいる。この学校では指折り数えるほどしかない精力的かつ馴れ合いサークルとして名高い演劇部の活動を行う傍ら、放課後や休み時間にとどまらず授業中にあってもポータブル機によるゲーム対戦で、よく所帯持ちの言う家族サービスならぬ友達サービスも決して疎かにしていない。まあ、後者に関しては別に誉めてもいないが、人と打ち解けるのが上手なところを見ても臆病で小心者の僕にとっては学ぶこと倣うことの多い器だった。コイツに追い立てられなければ、僕はおそらく変わることから逃避し続けていた。そう、コイツのように思うままに他者と打ち解けることさえできれば。そんなことを踏まえて、そっと消え入りそうな声で呟いた。

「お前には敵わねぇな――」

最後の角を右へ曲がり、校舎へと続いている緩く長い坂道をスタスタと安い靴音を響かせながら登坂する。飽きるほど毎日のように時を重ねてきたはずの、ありきたりな通学風景だ。それは僕だけでなく、君も同じだろう。同じ道を歩いて登校し、同じ建屋で授業を受け、部活なんかをしてまた同じ道を帰路につく。けれど、君と僕の日常は決して重ならない。同じ教室にいなければ、学年が違うことからクラスのある階も異なってくる。故意に部活を被せにいくことは正直できると思うが、本来受験生の分際で全く新たに生徒活動を始めようというのは、不可能ではないとしても常識を逸していることに違いないはずだ。現実味を帯びてこない。同じ高校に在学しているというだけでは明瞭な接点にはならない。だから強引につくる他なく、そこは目を瞑ってもらうしかない。無情である。

魔の坂、と生徒間では呼称されるスロープのように坂を登り終えると少々ではあるが階段が待ち受けていて、校舎玄関へたどり着くまでにそれなりに息切れする。が、別に大した運動量ではない。この程度の坂では“魔”と称するには明らかに誇大すぎるし、常日頃もっと歩け若者よ、と戯言を漏らさずにはいられない。まあ、僕も当たり前のようにほぼ同い年だ。……割と必死にタイムアタックを繰り広げた挙げ句に乗った電車が遅刻寸前だったがために始業時間に余裕は微塵もないのであるが、我ながら悠長に歩いたもんだと思う。前を行く生徒連中にはすっかり離されてしまった。事実、腕時計をちらりと覗くと絶望的な気分になった。結局先を歩いていった簗瀬は間に合っているだろうか。果たしてこれが甚だ無事と言えるのかは疑問だが、幾分乱れる息でエントランスに到達し、下駄箱に靴を放り込む前に出入口の脇の壁面にある自動販売機めがけて直行する。財布の中身をまさぐると、迷わずホットミルクティーのボタンに指を重ねた。放出されてくるそのミルクティーを片手ですくい上げると上腿を起こし、いざ下駄箱へ歩みを――と手元にあった視線を元に戻す。ここまではたった数秒の動作だったし、時空の枠に則していた。問題は視線を移した先、焦点が合ったもの。

見慣れた横顔だった。僕はかねてからこういったチャンスを待ち望んでいたはずだ。耳の奥にチャンステーマらしきマーチが鳴り響く。決して重なることのないであろう運命線が、ほんの少しだけ交わった瞬間――

「おぁっ……!おっはよう!」

少し噛んだのはこの際見過ごすとして、挨拶こそコミュニケーションの基本であり、同時に宇宙の真理でもある。初歩の初歩である挨拶がそもそもできないようでは、その先の意思疎通が図れるはずもないのだということだ。
最近は少し挨拶の言葉を投げかけただけで警察沙汰になることもあると聞くが、実に世知辛い、生き難いご時世になったもんだとピチピチの現代人ながらに遺憾を禁じ得ない。そしてさらにこの際なので言うとすると、挨拶とはとても気恥ずかしいものである。

『――おはようございますっ』

とあるきっかけで、というよりは単純に幸運が重なったことによって少女と面識を有しているのが唯一の救済だ。そして、瞬時のことで思考を巡らせる余裕もなかったが、握力の抜けかけた右手から買ったばかりの缶ミルクティーが放り出されなかったのは幸いであった。

『……ミルクティーですか?』

軽く持ち替えたときに動いたのが目立ったのか、彼女は右手のそれに目をやって言う。

「……うん、よかったらだけど持ってく?」

善意の押し売りのつもりはないにしろ、この寒いなか自分だけがホットドリンクに有りつくのはなんとなく気が引けたので、僕は缶を差し出した。

『――いいんですか?』

「いいですとも」

『……ありがとうございます――』

一瞬は渋ったものの、受け取ってもらうことはできた。

そういえば、と思って、喉元まで出かかった疑問を飲んだ。何かと言えば、もう始業のチャイムが鳴って数分は経つだろうし、僕のようにフリーダムなスクールライフを展開していない限りこの時間に玄関先に居るのは不自然だろう。彼女が自分と同列とは全く思わないし、今しがた登校してきたばかりのようにも見えない。違和感の正体はそれに尽きるだろう。まあ、担任に扱き使われた帰りだとか朝に何か活動していて遅くなってしまった真面目という線で考えるのが妥当かもしれない。いずれにせよ、あまり野暮なことは聞くもんじゃない。むしろ僕としては遅刻して得をすることになったわけだし、それには素直に喜びたい。

「……何がしてぇんだ」

背を向けた彼女が立ち去っていくのを見届けた後、我ながらに呟いた。自分は顔見知りという境遇に甘んじてもなお、彼女に声をかけることすらままならない。本当に今日のように挨拶を交わすのがやっとで、いくら何でも限界線が低すぎる。そんな自分から変わりたいと強く願っている。けれど願っているだけでは足踏み状態で、ましてや立ち止まって足踏みをしている暇が残されていないのだから、滑稽だろうと何であろうと、少しくらいの恥は忍んででも前へと歩みを進めていくしかない。

まあいい、運命という大きな道筋に逆らうことは並大抵ではないが、抗うことはできるはずだ。

さあ、残り半年。再三悪あがきでもしてみようか。とびきり無駄で滑稽なやつを。あぁ、簗瀬の奴に怒られてしまわないギリギリの線にしておこうか。

願わくば、そこに新たなドラマが生まれるように。

 

 ……(続く)

――

ご拝読ありがとうございます。序章でした。

この通り、短めの読み物を始めようと思います。これはひと昔軽く書き溜めていた物のリメイクになります。学園系で、これを書いた頃の自分は現役高校生でした。今思えば結構お恥ずかしいのですが、当時の心情を垣間見ることができて面白いのであまり改変してはいません。自分の境遇をかなり美化して描いているに過ぎないのです。